「社内SEは楽そうだから、転職したい」
SIerで働いていた頃、私も正直そう思っていました。納期に追われず、客先常駐もなく、定時で帰れる。そんなイメージです。
実際に転職して5年。答えを先に言うと、半分は当たっていて、半分は違いました。
私はSIer・受託開発で約12年、現在は製造業の社内SEとして約5年働いています。この記事では、両方を経験したからこそ言える違いを、良い面も悪い面も含めて本音で書きます。
「社内SE 後悔」という言葉で検索してこのページにたどり着いた方もいると思います。その不安に、きれいごと抜きで答えます。
結論:どちらが上ではなく「どちらが合うか」
最初にはっきりさせておきます。SIerと社内SEに優劣はありません。求められるものと、得られるものが違うだけです。
そして両方を経験した立場から言えば、開発経験を持って社内SEになると、市場価値は掛け算で伸びます。これがこの記事で一番伝えたいことです。
ただしその前に、社内SEの現実を正確に知っておく必要があります。
図解でひと目で分かる|SIer vs 社内SE

社内SEに移って「良かった」こと3つ
まず、期待どおりだった部分から。
1. 長時間残業と納期プレッシャーからの解放
これが最大の変化でした。
SIer時代は長時間残業や休日出勤が日常的にありました。年収が高くても、体を壊してしまえば意味がありません。社内SEに移ってからは、働き方そのものが大きく改善されました。
40代で転職を考えるなら、あと20年働き続けられる環境かどうかは年収と同じくらい重要な判断軸です。
40代の転職市場がいま実際どうなっているかは、こちらの記事で詳しく書いています。
2. 客先常駐がなくなった
自社で働けるようになったことも大きな違いです。
客先常駐は、良くも悪くも「よその家で働く」感覚がつきまといます。自社に腰を据えて働けるようになったのは、精神的にかなり楽になりました。
3. 自分の仕事の結果が、目の前で見える
これは想像以上に良かった点です。
社内SEが作ったり導入したりするシステムを使うのは、同じ会社の社員です。「使いやすくなった」「ここが不便だ」という反応が、直接返ってきます。
受託開発では、納品したシステムが現場でどう使われているかまで見届けられることは多くありません。自分の仕事が誰の役に立っているかが見える、というのは働くうえでの手応えになります。
想像と違ったこと|配属初日から「雑務」が待っていた
ここからが、転職前の私が知らなかった現実です。
総務課に配属され、総務の雑務を手伝う日々
私の配属先は、当初は情報システム部門ではなく総務課でした。
そのため、総務課内の雑務の手伝いに駆り出される機会が最初はありました。「ITの仕事をしに来たはずなのに」と感じたのは事実です。
これは後述しますが、転職前に必ず確認すべき最重要ポイントです。
社内問い合わせが想像の3倍多い
もう1つの誤算が、社内問い合わせの量でした。
「パソコンが動かない」「印刷できない」「このソフトの使い方が分からない」——こうした問い合わせが次々に来ます。
入社当初は、本来やる予定だった仕事にまったく着手できず、ヘルプデスク業務だけで1日が終わってしまうことも多くありました。
社内SEの「しんどい」部分3つ|ここが後悔ポイント
検索してこの記事に来た方が一番知りたいのは、ここだと思います。正直に書きます。
1. 何でも屋になりやすい
これは社内SEという職種の構造的な性質です。
パソコンのトラブル対応から、各部署が抱えるIT課題の相談まで、「ITに関することは全部この人」という扱いになりがちです。
会社の規模や業界にもよりますが、社内SEだからといって毎日定時で帰れるわけではありませんし、プレッシャーがない職種でもありません。むしろ相談の窓口が全部門なので、忙しくなりやすい構造です。
2. 成果を正当に評価できる人が、社内にいない
これは社内SE特有の、根が深い問題です。
多くの会社では、もともとITの専任者がいなかったところに社内SEが入ります。つまりあなたの上司も同僚も、その仕事の難易度や作業量を判断できません。
- 大変なシステム移行をやり遂げても、その大変さが伝わらない
- トラブルなく動いているのは「当たり前」と受け取られる
- 逆に何かが止まったときだけ目立つ
「正当に評価されていないのでは」と感じることは、正直あります。SIerが「プロジェクト完遂」という誰にでも分かる成果で評価されるのとは、対照的です。
3. 新しいスキルを学ぶ時間が取れなくなる
日々の業務に追われると、勉強の時間が消えます。
目の前の問い合わせと運用対応をこなすだけで手一杯になり、新しい技術に触れる時間が後回しになる。これは40代のSEにとって、じわじわ効いてくる問題です。
実際、同じ職種の若手から「このまま何でも屋になって、自分のキャリアはどうなるのか」という不安を相談されたこともあります。社内SEのキャリアパスの見えにくさは、多くの人が抱える悩みです。
それでも、開発経験は社内SEで強力な武器になる
ここからが、この記事の本題です。
しんどい面を書いてきましたが、開発経験を持った人が社内SEをやると、明確な優位性が生まれます。私が実感している具体例を挙げます。
1. 工数・難易度・期間を、自分で概算できる
社内で何かシステムを作る話が出たとき、開発経験があれば「これはどのくらいの難易度で、どのくらいの期間がかかるか」を自分で見積もれます。
これができると、ベンダーの提案や見積もりが妥当かどうかを判断できます。逆に言えば、この判断ができない社内SEは、言われた金額を払うしかありません。
2. 「自分でやれるもの」と「頼むもの」を切り分けられる
小規模なものは、ベンダーに頼らず自分で作ることもあります。
外注すべきか内製すべきかの線引きができるのは、開発の勘所が分かっているからです。これはそのままコスト削減につながります。
3. 要件定義で「何を詰めるべきか」が分かる
開発経験がまったくないと、要件定義でベンダーと何を協議すればいいのかが分かりません。
私は自分が開発側だった経験から、何に注意すべきか、過去にどこで失敗が起きたかを知っています。
特に仕様変更は工数に大きく影響します。だから要件定義の段階で曖昧な部分をはっきりさせておく必要がある——これは、作る側を経験しないと実感として分かりません。
4. 技術の選定を誤らない
プログラミング経験があれば、「どの開発言語が適切か」「そもそもマクロで十分ではないか」といった判断ができます。
実際にあった話です。IT専門ではない社員が、業務のためにマクロで大規模な仕組みを作ってしまったケースがありました。開発言語の知識がないためにマクロで無理やり組んだ結果、業務で使えるレベルのものにならなかったのです。
システムを作るときは、開発言語・パッケージ・SaaSなど複数の選択肢から最適なものを選ぶ判断が必要です。この選択を間違えないことが、社内SEの重要な仕事です。
社内SEに向いている人・向いていない人
社内SEで活きるのは、こういう人
まず、コミュニケーション能力がある人です。
社内SEはプログラマーではありません。ひたすらパソコンに向かう仕事ではなく、自社の社員、関係会社、外部ベンダーなど、さまざまな人とやりとりします。社内外の調整役を担うことも多い職種です。
そして、特定のスキルにこだわらず、幅広い業務に取り組める人。自社のシステムを作り、改善していくこと自体が好きな人は、社内SEで活躍できます。
SIerに残った方がいいのは、こういう人
とにかく高い年収にこだわる人は、SIerに残る選択も十分ありです。
正直に言うと、社内SEの年収は一般的に高いレンジには入りません。高年収を実現しやすいのは、やはりSIer側です。
また、長時間残業が苦にならない人も、SIerの方が力を発揮できるかもしれません。裏を返せば、社内SEは「働き方の安定と引き換えに、年収の上限がある」職種だということです。
転職前に必ず確認すべきこと|配属先で天と地の差が出る
最後に、これから社内SEを目指す方へ、一番実用的なアドバイスを書きます。
確認すべきは「情報システム部門か、総務部門か」
同じ「社内SE」という求人でも、配属先によって仕事の中身がまったく変わります。
- 情報システム関連部署に配属 → IT業務に集中しやすい
- 総務課などに配属 → 何でも屋になりやすく、雑務も回ってくる
私自身、当初は総務課の配属でした。だからこそ断言できます。ここは入社後のギャップの最大の原因になります。
求人票には「社内SE」としか書かれていないことも多いので、面接の段階で必ず確認してください。
面接で聞きにくいことを整理しておく方法は、面接対策の記事でまとめています。
内定後は「座談会」や「職場見学」を要望する
もう1つ、強くおすすめしたいことがあります。
内定が出たら、実際に一緒に働く人たちとの座談会や、配属先の見学を要望してみてください。
こうした要望は、自分から企業に直接言い出しにくいものです。ここは転職エージェント経由で頼むのが現実的です。エージェントは企業との窓口なので、応募者が言いにくいことを代わりに交渉してくれます。
職場を見て、人に会えば、入社後のギャップを大きく減らせます。内定を承諾するかどうかの判断も、そこで初めて正確にできます。
なお社内SEの求人は、そもそも非公開で扱われることも少なくありません。求人を見つける段階でも、エージェントは使う価値があります。
まとめ:社内SEは「楽」ではない。でも経験は掛け算になる
- 社内SEに移ると、長時間残業・納期プレッシャー・客先常駐からは解放される
- 一方で、何でも屋になりやすく、成果を評価できる人が社内にいない現実がある
- 社内SEは会社に直接収益をもたらす部門ではないため、最小限の人数で回されがち。結果として一人あたりの負担は大きくなりやすい
- それでも、開発経験がある人は「工数を読める・要件を詰められる・技術を選べる」という明確な武器を持てる
- 転職前に、配属先が情報システム部門か総務部門かを必ず確認する
私がSIerから社内SEへ移ったのは、長く働き続けられる環境を求めたからでした。そして、これまでの経験が無駄にならないどころか、両方を経験していること自体が希少な価値になると考えたからです。
実際、その判断は間違っていなかったと思っています。
なお「開発×運用」のような自分の掛け算を言葉にする方法は、スキル棚卸しの記事で手順を公開しています。
「社内SEは楽だから」という理由だけで選ぶと、確実にギャップに苦しみます。でも「開発の経験を持ち込んで、自社のITを良くしていく仕事」として捉えれば、これほどやりがいのある職種もありません。

